複式簿記による研究費管理のススメ(3)

仕訳の具体例

1) 引当金の計上

たとえば、12月に サンフランシスコ で開催される国際会議に出張する計画を、年度始めに立てるとしましょう。この場合、仕訳帳には以下のように記入します。

図1 引当金を計上する仕訳の例

借方に「引当金繰入(海外旅費)」を記入し、貸方に「引当金(12月分)」を記入します。金額はとりあえず概算を記入しておきます。日付をどうするか悩むかもしれませんが、引当金を計上する場合は一律に“記入した日“を記入するとよいでしょう。

2) 引当金に計上した計画の実行

国際会議に投稿していた論文の採択通知が届き、出張が正式に決定したとしましょう。航空券を手配し、出張旅費の金額も定まりました。この場合、引当金に計上していた計画を取り下げ、確定した金額で本支出の記録をつけます。

図2  計画を実行するときの仕訳の例

1行目は引当金に計上していた計画の取り下げです。 借方を「引当金繰入(海外旅費)」、 貸方を「引当金(12月分)」とし、マイナスの金額を入力します。これを記入するには、以前(今回の例では4月1日)に引当金に計上していた計画を参照する必要がありますが、計上していたことをうっかり忘れ、引当金の取り下げ処理をし忘れてしまうこともあり得ます。こうした場合の対処方法は、第6回「帳簿の運用方法」で説明します。

2行目、3行目は本支出です。借方に「海外旅費」、貸方に「研究資金」を記入します。

3) 計画の取り下げ

今度は別のケースとして、国際会議に投稿していた論文の不採択通知が届き、12月に予定していた国際学会出張の計画を取りやめる場合を考えてみましょう。この場合は、引当金に計上していた計画を取り下げる処理のみを行います。

図3 計画の取り下げ

計上した時と同様、借方を「引当金繰入(海外旅費)」、 貸方を「引当金(12月分)」とし、マイナスをつけた金額を記入します。

計画を取り下げる別の方法として、 借方を「引当金(12月分)」、貸方を「引当金繰入(海外旅費)」と、計上時と借・貸を逆にしてプラスの金額を記入するやり方もあります。しかし、上記のようにマイナスの金額を記入する方が、取り下げた取引を検出しやすいので断然おすすめです。

あるいはもっと単純な方法として、以前に引当金に計上した際の仕訳の記録を消去してしまう、というやり方もあります

どの方法を選択するかは運用のポリシー次第ですが、ここでは「意思決定のすべての過程を記録に残すこと」を運用ポリシーとし、消さない例を示しました。

4) 直接執行(引当金に計上していなかった支出)

予め計画していなかった支出をすることも多々あるでしょう。この場合は、引当金を介さず、最初から本支出の処理をします。例として、4月12日にPCソフトを32,400円で調達した場合を示します。

図4 直接執行する場合の仕訳の例

借方に「消耗品費」、貸方に「研究資金」を記入します。PCソフトは所属機関によっては「設備備品」扱いになる場合もあると思いますが、ここでは消耗品扱いで処理できるとしています。

5) 交付金の入金

説明の順番が逆になりましたが、期首に交付金が入金されたときの仕訳の例を示します。

図5 交付金の入金

借方に資金の勘定科目である「研究資金」、貸方に収益の勘定科目である「交付金」を記入します。

次回は、仕訳帳を元に試算表を作成する例を紹介します。

(渡邉 孝信)