Lennard-Jonesポテンシャルを用いたMDシミュレーション

原子間ポテンシャル

\(N\)個の粒子からなる系の全ポテンシャルエネルギー\(V(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2,\cdots,\boldsymbol{r}_N)\)は、1体項、2体項、3体項、・・・の和に展開して表すことができる。これをクラスター展開と呼ぶ。

$$\begin{eqnarray} V(\boldsymbol{r}_1,\boldsymbol{r}_2,\cdots,\boldsymbol{r}_N) & = & \sum_i v_1(\boldsymbol{r}_i) +  \sum_i \sum_{j>i}v_2(\boldsymbol{r}_i,\boldsymbol{r}_j)\\
&&+\sum_i \sum_{j>i} \sum_{k>j>i} v_3(\boldsymbol{r}_i,\boldsymbol{r}_j,\boldsymbol{r}_k)+\cdots
\end{eqnarray}$$

\(v_1(\boldsymbol{r}_i)\)は1体項と呼ばれ、外力の効果を表す。第2項以降が原子間相互作用のポテンシャルである。\(v_2(\boldsymbol{r}_i,\boldsymbol{r}_j)\)は2体項、あるいはペアポテンシャルと呼ばれる。2原子間の距離\(r_{ij}=|\boldsymbol{r}_i-\boldsymbol{r}_j |\)のみに依存する場合は、\(v_2(r_{ij})\)と書ける。\(v_3(\boldsymbol{r}_i,\boldsymbol{r}_j,\boldsymbol{r}_k)\)は3体項と呼ばれ、共有結合の結合角に依存したエネルギーを表すためによく用いられる。

上の式には示されていないが、分子鎖のねじれ角の歪エネルギーを表すために4体項が用いられることもある。5体項以上は少なくとも筆者は見たことがない。ただし、配位数に応じて2体項や3体項が変化するように拡張した、いわゆる多体効果を取り入れた2体、3体ポテンシャルは無数に存在する。

有効ペアポテンシャル

共有結合のように異方性の強い相互作用がなければ、3体項以上の多体項の効果を2体項に繰り込んでしまう近似法が取られることが多い。これを有効ペアポテンシャルと呼ぶ。

$$ V \simeq \sum_i v_2^{\rm eff} (r_{ij}) $$

有効ペアポテンシャルの代表的な例が、Lennard-Jones 12-6 ポテンシャルである。

$$ v_2^{\rm LJ}(r) = 4 \varepsilon \left \{ \left ( \frac{\sigma}{r} \right )^{12} – \left ( \frac{\sigma}{r} \right )^6 \right \} $$

ちなみに\(1/r^6\)に比例する項がロンドン力、すなわち誘起双極子間に働く引力で、いわゆるファン・デル・ワールス力の主成分である。\(1/r^{12}\)に比例する項は近接反発項で、12乗という数字に特に理論的根拠はない。6乗に反比例する項より速やかにゼロに収束させるためには6乗より大きくする必要があるが、12という数が用いられるのは、単に6の2倍で、計算に便利だからであろう。