ド・ブロイ波(7)

渡邉孝信(早稲田大学・電子物理システム学科)

ここまでの話で、ド・ブロイの業績として有名な関係式

$$\lambda  = \frac{h}{p}\label{debroglie}\tag{7.1}$$

が、最初に紹介して以来、まだ一度も登場していません。実際、1924年に受理されたド・ブロイの博士論文でも、式(\ref{debroglie})についてほんの少ししか触れられていませんでした。

 ド・ブロイの関係式(\ref{debroglie})は、ド・ブロイが考えた位相波の位相速度

$$V_\theta = \frac{c^2}{v}\label{phasev}\tag{7.2}$$

から簡単に導くことができます。まず、波動現象で一般に成り立つ位相速度\(V_\theta\)の式

$$V_\theta=\lambda\nu\tag{7.3}$$

から出発します。\(\lambda\)は波長、\(\nu\)は振動数です。この式に、速度\(v\)で運動する粒子に付随する波動の振動数

$$\nu = \frac{mc^2}{h}\frac{1}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}} \tag{3.2 再掲}$$

と、ド・ブロイの位相波の位相速度の式(\ref{phasev})を代入すると、波長\(\lambda\)は

$$\lambda = \frac{h}{mv}\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}\label{wavel}\tag{7.4}$$

となります。

 また、相対性理論によると、速度\(v\)で運動する質量\(m\)の物体の運動量は

$$p = \frac{mv}{\sqrt{1-\frac{v^2}{c^2}}}\label{momentum}\tag{7.5}$$

で与えられるので、式(\ref{wavel})と式(\ref{momentum})から、

$$\lambda  = \frac{h}{p}\label{debroglie2}\tag{7.6}$$

が導かれます。式(\ref{debroglie2})は、光速より速い位相速度\(V_\theta = {c^2}/{v}\)とか、ローレンツ変換を包み隠してくれる、たいへん便利な式です。


 式(\ref{debroglie2})を出発点におけば、ボーアの量子条件も、半径\(r\)の円軌道が物質波の波長\(\lambda\)の整数倍でなければならないという条件

$$2\pi r=n\lambda\label{bohr}\tag{7.7}$$

から、簡単に導くことができます。実際、相対性理論のことは考えずに\(p=mv\)とおいて、式(\ref{debroglie2})を式(\ref{bohr})に代入すると、簡単にボーアの量子条件

$$2\pi mv r=nh\label{bohr2}\tag{7.8}$$

の式が導かれます。現在のほとんどの教科書で、この説明が用いられていると思います。

(次回につづく)