Deal-Groveモデル(3)

Deal-Groveの微分方程式

dx0dt=BA+2x0

の解を求めてみましょう。これは変数分離法で解ける簡単な問題です。

(A+2x0)dx0=Bdt

として両辺を不定積分し、一般解を求めます。

x0(A+2x0)dx0=tBdt+C

x02+Ax0=Bt+C

Cは未定の積分定数で、これを決定するには境界条件を与える必要があります。境界条件として

x0(0)=xi

を与えましょう。すなわち、時刻t=0で厚さxiのSiO2膜が既にある、とします。すると、

C=xi2+Axi

となり、微分方程式の特解として

x02+Ax0=Bt+xi2+Axi

が得られます。あるいは、

x02+Ax0=B(t+τ)

と書いてもよいでしょう。ここでτ=(xi2+Axi)/BはSiO2膜の厚さがちょうどゼロとなる、時間軸との切片(にマイナスの符号をつけた値)に相当します。時間軸tt+τ=tとシフトしてあげれば、t=0x0=0から始まるスッキリした関係になります。

線形領域と放物型領域

Deal-Grove方程式の解

x02+Ax0=B(t+τ)

は、線形-放物型方程式と呼ばれます。SiO2膜が薄い初期段階では、x02が小さく無視できますので、

x0BA(t+τ)

となります。SiO2膜厚x0は時間に比例して増加することになります。この近似が成り立つ領域を線形領域(linear region)と呼び、比例係数B/Aは、線形速度定数(linear rate constant)と呼ばれます。

一方、SiO2膜厚x0が十分厚くなってくると、x02に比べてAx0の項が無視できますので、

x02B(t+τ)

となります。SiO2膜厚x0の2乗が時間に比例することになります。この近似が成り立つ領域を放物型領域(parabolic region)と呼び、比例係数Bは、放物型速度定数(parabolic rate constant)と呼ばれます。

SiO2膜厚x0の大小によって近似せず、x0を一般的な形で表すと、x0>0より

x0=A+A2+4B(t+τ)2

となります。ここで

x0A/2=1+1+t+τA2/4B

と書き直し、

χx0A/2

θt+τA2/4B

と変数変換すると、χθ

χ=1+1+θ

というユニバーサルな関係で表されることになります。

実際、パラメータABτを適切に選ぶと、O2分子を酸化種とする乾燥雰囲気中の酸化(ドライ酸化)でも、H2O分子を酸化種とする水蒸気中の酸化(ウェット酸化)でも、SiO2膜厚x0と時間tの関係を幅広い温度領域で再現することが確認されています。

逆に、線形領域から放物型領域まで、SiO2膜厚x0と時間tの関係を実験で計測して、パラメータABτを抽出してあげれば、その温度依存性などを調べることで、酸化プロセスの素過程に関する多くの手掛かりを得ることができます。