線形速度定数\(B/A\)は、Deal-Groveモデルでは以下のように与えられます。
$$ \frac{B}{A}=\frac{C^\ast/N_1}{1/k+1/h}$$
気相物質輸送係数\(h\)は、界面反応速度係\(k\)より数桁大きいですので、\(1/k\)に比べて\(1/h\)は無視できます。よって線形速度定数は
$$ \frac{B}{A}\simeq \frac{C^\ast}{N_1}k$$
と近似でき、界面における酸化反応で決まることになります。このため、Deal-Groveモデルの枠組みでは、「線形領域は界面反応律速の領域」と解釈されます。
一方、放物型速度定数\(B\)は
$$ B=2D_0\frac{C^\ast}{N_1}$$
で与えられますから、SiO2膜中の拡散過程が律速となっていると言えます。このため、「放物型領域は拡散律速の領域」と解釈されます。
\(B/A\)と\(B\)の活性化エネルギー
DealとGroveは、この線形-放物型方程式を用いて、様々な条件下で計測した酸化速度の実験値にフィッティングし、線形速度定数\(B/A\)および放物型速度定数\(B\)の温度依存性から活性化エネルギーを見積もりました。その結果を次の表にまとめます。
B/Aの活性化エネルギー [eV] | Bの活性化エネルギー [eV] | |
ドライ酸化(O2) | 2.0 | 1.23 |
ウェット酸化(H2O) | 1.96 | 0.704 |
\(B/A\)の活性化エネルギーはドライ酸化でもウェット酸化でもほぼ同じです。このエネルギーはSi-Siの結合エネルギー(1.82eV)に近いことから、Si-Si結合を切る過程がドライ酸化でウェット酸化での律速過程になっているだろうとDealとGroveは推測しています。
一方、放物型速度定数\(B\)の活性化エネルギーはドライ酸化とウェット酸化で違っています。ドライ酸化の場合の\(B\)の活性化エネルギーは、溶融シリカ中のO2分子の拡散係数の活性化エネルギーと近い値になっています。また、ウェット酸化の場合は、H2O分子の拡散係数の活性化エネルギーと近い値となります。このことから、放物型領域では酸化種分子がSiO2膜中を拡散する過程が律速となっていると考えられます。
溶融シリカ中の拡散係数の活性化エネルギー [eV] | |
O2分子 | 1.17 |
H2O分子 | 0.791 |
以上の説明を聞くと、Deal-Groveの説明は明快で非の打ち所がないように思えます。実際、ウェット酸化については、Deal-Groveモデルはほぼ完ぺきに実験と合います。しかしドライ酸化に関しては、条件によってはDeal-Grove方程式の予測から外れることがわかっています。それは主に下記の2点です。
- 説明できない現象1:ドライ酸化のごく初期の酸化速度が説明できない。
- 説明できない現象2:ドライ酸化では\(B/A\)が圧力に対して飽和する傾向が観測されるが、この理由を説明できない。
次回は、これらDeal-Groveモデルの適用限界についてもう少し詳しく解説します。