複式簿記による研究費管理のススメ(5)

サマリー表の作成

「サマリー表」とは、研究費の経理処理に必要な情報をまとめた、財務諸表の簡易版です。バランスシートの「資産」「負債」「純資産」の金額、損益計算書の中の「費用」の内訳、そして各月の「引当金」の残高を一覧表示させます。

表2に示した試算表から作成したサマリー表を表3に示します。これを「科研費・基盤研究(〇)」、「○○財団研究助成金」など研究費ごとに用意します。いちいち新たに作成するのではなく、試算表と連動して自動的に更新されるように、同じEXCELファイル内に作り込んでおきます。

表3 サマリー表

1行目の右の方に、「資産」および「負債」の合計金額が記載されています。これは「試算表」の「資産」および「負債」の勘定科目の、「当期増分」の合計金額です。2行目の右端にある「純資産」は、「資産」から「負債」を引いた差分です。この「資産」、「負債」、「純資産」の3つの金額からなる極めて単純な表が「バランスシート」になっています。「純資産」は、現在の研究費の残金のうち、支出予定が決まっていない金額、すなわち、これから自由に使途を決められる研究費の余裕を表しています。この例では、この時点で73万円ほど余裕があることになります。年度初めに純資産が沢山あると安心ですが、年度末に向けてゼロになるように執行のペースを調節していく必要があります。

3行目以降は、「試算表」のうち、「費用」と「負債」の内訳を見やすく並べ替えたものです。公的研究費の場合、「設備備品費」、「消耗品費」、・・・といった費目の額が交付時に決まっています。ある程度の費目間流用は認められているものの、基本的には計画通り執行することが求められますので、各費目の合計金額が許容範囲に収まっているどうかもチェックする必要があります。そこで、「予算額」という列に、交付時に設定した各費目の金額を参考データとして記載しています。

なお、表3の例では国内旅費が予算オーバーになっていますが、科研費の場合、直接経費総額の50%までは費目間流用が認められているので問題ありません(科研費ハンドブック2018年度版参照)。 さらに付け加えると、直接経費総額の50% が300万円以下の場合は、300万円まで費目間流用が認められています。ですので、年度予算が数百万円規模の科研費の場合、費目間流用制限で困ることはほとんどありません。科研費は柔軟でとても良い制度です。

3行目以降の右の方に、各月の「引当金」に計上した金額が記載されています。これが現時点で予定されている未執行の金額を表しています。過去の月の引当金がゼロになっていない場合は要注意です。なぜなら、その月に予定していた支出が完了していないことを意味しているからです。単に請求書が手元に届いていないだけかもしれないし、業者に発注するように指示していたのに当の担当者が忘れていた、といったミスが潜んでいるかもしれません。あるいは、支出計画から外したつもりでいたのに、経理担当者に正しく伝達されておらず、帳簿に反映されていなかっただけかもしれません。

このように、「引当金」の数字は、研究費執行上の様々なトラブルを発見するトリガーとして大変役立ちます。

これまでの記事で、仕訳の仕方、試算表およびサマリー表の作り方まで一通り見てきました。次回は、これら帳簿の日々の運用方法を説明します。

(渡邉 孝信)