Deal-Groveモデル(2)

今回は、Deal-Grove方程式を導出します。ちゃんと勉強するなら、Deal-Groveの原著論文1)や、Grove自身が書いた教科書2)を読んだ方がずっと近道なのですが、この後の記事とのつながりもありますので、簡単に説明しておきます。

導出の方針

Si表面の酸化は、雰囲気中の酸化種分子(O2分子やH2O分子)がSiO2膜に浸透してSi基板に達し、SiO2/Si界面で酸化反応を起こす、という流れで進みます。このことは同位体をマーカーとして使った実験で確認されています。

ただし、Si原子が全く動かないわけではなく、Si基板からSi原子が放出されてSiO2膜中を拡散し、SiO2面膜中やSiO2表面で酸化種分子と出合って酸化反応が起きるという説3)もあります。ドライ酸化に見られる初期の異常な酸化速度は、このSi原子放出が原因だというのです。ただしこの説でも、Si原子の放出量は少量で、SiO2膜の大部分はSiO2/Si界面で形成されると考えられています。よって、おおよその酸化速度は、酸化種分子の輸送プロセスだけ考えれば記述できます。

さて、酸化種分子がSiO2/Si界面に到達してSi基板を酸化するまでには、次の3つの過程を経る必要があります。

  • 第1段階:気相雰囲気中の酸化種分子がSiO2膜表面に到達する過程。
  • 第2段階:酸化種分子が既に存在するSiO2膜中を拡散する過程。
  • 第3段階:SiO2/Si界面に到達した酸化種分子がSi基板を酸化して消費される過程。

以上の3つの段階に対応する酸化種分子の流束(単位時間あたりに単位断面積を通過する酸化種分子数)をF1F2F3と表記し、それぞれを定式化してみましょう。

第1段階:F1の定式化

気相中の酸化種分子の流束は、気相中の酸化種の濃度CGとSiO2膜表面ごく近傍における酸化種の濃度CSの差に比例する線形近似で表すことができます。

F1=hG(CGCS)

ここでhGは気相中の物質輸送係数です。この式の中の、気相の酸化種の濃度CGCSを、酸化膜中の酸化種の濃度で置き換えることを考えてみましょう。

一般に、溶液中に溶け込んだ溶質の濃度が薄い場合、溶質の濃度は気体中のその物質の分圧に比例することが知られています。Henryの法則です。今考えている系は固体ですが、SiO2膜中に含まれる酸化種にこのHenryの法則を適用すると、表面近傍の酸化種の濃度C0は、定常状態ではSiO2膜表面ごく近傍における酸化種の分圧pSに比例すると考えられます。

C0=HpS

ここでHはHenryの法則における比例定数です。同様に、SiO2膜中の酸化種の平衡濃度Cは、気相中の酸化種の分圧pG

C=HpG

で関係づけられます。

理想気体の状態方程式

pG=CGkBT

pS=CSkBT

より、気相中の酸化種分子の流束F1は、

F1=hGHkBT(CC0)h(CC0)

と表されます。hは言うなれば、SiO2膜中の酸化種濃度で表した場合の気相物質輸送係数、ということになります。

第2段階:F2の定式化

SiO2膜中を拡散する酸化種の流束F2は、Fickの第一法則より

F2=D0dC(x)dx

で与えられます。D0はSiO2膜中の酸化種分子の拡散係数です。SiO2膜中の酸化種の濃度勾配は

dC(x)dx=CiC0x0

で表されるので、

F2=D0CiC0x0

となります。

第3段階:F3の定式化

界面に到達した酸化種分子が酸化反応で消費される速度は、界面の酸化種濃度に比例すると考えられます。よって、界面における酸化反応速度定数をkと書くと、

F3=kCi

と与えられます。

Deal-Grove方程式の導出

定常状態を考えると、上記の3つの段階に対応する酸化種分子の流束F1F2F3はつり合っていると考えられます。よってFF1=F2=F3の条件を課すと、定常状態の流束F

F=D0CD0(1/k+1/h)+x0

と与えられます。これが、界面の単位面積で単位時間に消費される酸化種分子の個数となります。SiO2膜の成長速度、すなわち、SiO2膜の厚さx0が増える速度は、この流束Fに比例することになります。

SiO2膜の単位体積当たりに取り込まれる酸化種分子の個数をN1とおくと、

dx0dt=FN1=D0C/N1D0(1/k+1/h)+x0

という、SiO2膜厚x0の時間に関する微分方程式が得られます。これがDeal-Grove方程式です。

以後、この微分方程式を下記のように簡略化して表記します。

dx0dt=BA+2x0

ここで

A=2D0(1/k+1/h)

B=2D0C/N1

です。わざわざ分子と分母を2倍した理由は、こうしておくとこの後で求める微分方程式の解がシンプルに表記できるからです。

  1. B. E. Deal, A. S. Grove, J. Appl. Phys. 36, 3770 (1965).
  2. 垂井康夫 監訳, Andrew. S. Grove著, “グローブ 半導体デバイスの基礎,” オーム社 (1995).
  3. H. Kageshima, K. Shiraishi, M. Uematsu, Jpn. J. Appl. Phys., 38, L971, (1999).