DBO-FF

どんな元素をどんなふうに混ぜると、どんな化学変化が起こって、どんな構造と性質を持った物質が出来るのか。予めシミュレーションで見当をつけることができれば、新しい材料開発はとても効率よく進むはずです。ところが、ナノスケールの小さな粒々ですら、何百万個もの原子が集まった巨大で複雑なシステムになってしまうため、その全体的な振る舞いをコンピュータで予測することは極めて困難です。

当研究室では、1つ1つの原子に化学結合の「手」を持たせた原子間相互作用モデルを開発し、シンプルな古典力学の枠組みで大規模な分子シミュレーションを行えるようにしました。わたくしたちはこの手法をDynamic Bond-order Force Field、略してDBO-FFと名付けました。DBO-FFは、多種類の元素が混在する複雑かつ大規模な系でも、化学反応を伴うダイナミックなシミュレーションを可能にします。

DBO-FFでは、各原子は”bond terminal”と呼ばれる共有結合の起点を価電子の数だけ有しています。bond terminal間には”bond-order element”という仮想的な力学変数が割り当てられており、このbond-order elementの値によって共有電子対が形成されているかどうかが決まります。
DBO-FFでは、共有結合の所在がはっきり示されるので、従来型のポテンシャルで問題となっていた不要な相互作用がなくなり、他元素混在系でもパラメータ決定を容易に行うことができます。
DBO-FFで再現された水分子間のプロトン輸送
  1. Takanobu Watanabe, “Dynamic bond-order force field,” Journal of Computational Electronics Vol. 10, pp.2-10, (2011). doi:10.1007/s10825-011-0344-0
  2. Shuichiro Hashimoto, and Takanobu Watanabe, “A New Reactive Force Field for Study on the Formation of SiC/SiO2 Interface,” 2015 International Workshop on Dielectric Thin Films For Future Electron Devices: Science and Technology (IWDTF 2015), Miraikan, National Museum of Emerging Science and Innovation, Tokyo, Nov. 4, 2015.